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原発、ダム、平城宮 あきらめず政治動かそう 2012年12月12日(水)ここのところすごく寒い

平城宮跡で始まった埋め立て舗装工事について反対運動を展開しているところ、中日新聞の記者さんから寄稿依頼が。12月7日の夕刊に掲載された。題は編集部でつけてくれた。

「原発、ダム、平城宮 あきらめず政治動かそう」
 近鉄電車で名古屋や津から奈良へ出かけてみよう。大和西大寺駅を過ぎたところで市街地が途切れ、一気に視界が開ける。車窓いっぱいに広がる草原が、平城宮跡だ。あおによし、奈良の都の夢の跡。奈良時代、ここに王宮と官庁街があった。
 七一〇年、壮麗な平城京が造られた。しかし、七八四年には京都へ遷都。あらゆる建築部材を持ち去って再利用したので、王宮は更地に。ほどなく耕作地となり、千年以上にわたって田んぼが営まれていた。
 幕末に王宮跡として再発見され、明治期に保存運動が始まる。そして昭和の半ば、近鉄の車庫建設計画と、国道建設計画が持ち上がり、国会で問題に。遺跡保全のため国有化されることになった。以来半世紀、かつての田んぼは、草地・湿地のまま維持されてきた。
 草地の下には、千三百年前の遺構と、貴重な文字資料である木簡がいまも眠る。平城宮跡を特別な存在にしているのは、大量の木簡だ。地下水位が高かったので、地下の木簡は水に浸され、真空パックのような状態にある。だから酸化・腐敗をまぬがれ、当時の文字が読める新鮮な状態で出土する。
 平城宮跡とは、日本の原風景たる景観であり、都市に隣接する貴重な自然であり、世界遺産に登録された歴史遺産である。複合的な価値を持つ、特別な空間だ。
 ところが今年九月、その平城宮跡中心部の広大な草原を、埋立て舗装する工事が突然始まった。新聞発表の翌日が着工日だった。
 平城宮跡を国営公園として管轄する国土交通省は、「往時の広がりを再現」するための工事だと言う。だが、今でこそ広々とした草原だが、当時ここは役所の建物が並び、視界は広くなかった。説明が矛盾している。
 二日後、説明を求める市民らが、現地の国交省分室に集まった。担当者に問いただしてわかったのは、工事に際して、地下遺物への影響を精査しておらず、世界遺産の現状変更なのにユネスコ世界遺産委員会への報告もしていないという事実。みな、愕然とした。
 集まった市民で「平城宮跡を守る会」を結成。埋立て舗装反対の署名活動を始めた。開始わずか十日間で集まった四千六百筆の反対署名を携え、十月半ば、東京・霞が関へ。国交省・文化庁の担当課長と、意見交換の場を持った。
 ここで初めて「中央の役人」と対面した筆者は、非常なショックを受けた。ともかく話がかみ合わない。質問をはぐらかす。論点をそらす。嘘すれすれの詭弁を使う。明らかな嘘まで言う。正直、人格を疑った。堂々巡りを繰り返すうち、時間切れに。
 冷静にみて、国交省と文化庁の言い分は穴だらけだった。彼らの主張する「埋立て舗装工事の意義」は、すべて論破したはずだ。
 単純な話、この工事にはメリットがない。歴史を感じさせる景観を失い、後世に伝えるべき遺物を危険にさらし、豊かな生態系を傷つけ、公園としての使い勝手を悪くする。だが、この話が通じない。官僚は架空の前提を詭弁で飾りたて、明快な真実を見ない。
 論理にならない論理が山と積まれ、科学的事実が黙殺される。国民に不利益をもたらす事業が、「決定済み」の一言で推進される。「ああ、原発もダムも、これと同じ仕組みなのだな」と気付いた。
 署名はいまも続いており、二万八千筆に届こうとしている。もはや、政治しかこの工事を止められない。政治を動かすのは、世論であり、有権者だ。あきらめず、声をあげていきたい。
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埋め立て工事が始まった平城宮跡中心部の草原。
後方は朱雀門(筆者撮影)=奈良市で

⇒紙面スキャン
入稿のあと、安冨歩『原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―』(明石書店2012)を読んだ。自分が霞が関で直面した、わけのわからない応対の正体について、とても明確に書いてあった。原発や、無駄なダムがなぜ正当なものとされ建設されてしまうのか。その秘密が、この世界に蔓延する「欺瞞言語体系=東大話法」なのだ。この本は、評論集の体裁の哲学書。ニーチェが「ルサンチマン」という概念を提示してくれたおかげでものごとの理解が進んだように、「欺瞞言語体系」という概念を知ることで、人は生きるのが楽になり、社会悪と対峙するとき、無駄な心労をせずに済む。
運動を進めているうちに、平城宮跡の問題というのは、今回の埋め立て工事だけでないことがわかってきた。これは短期決戦では済まない。息切れしないよう、多くの人たちとともに、腰を据えてかかわっていきたい。

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